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【第2波に備え超重要】みんな疲れることをする! 日本の失敗の本質《岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義⑮》

命を守る講義⑮「新型コロナウイルスの真実」

■「みんな疲れるからやめよう」という引き算の発想

意味のないことは議論しない。疲れることはやめる。こうした引き算の発想に変換できるかが課題

 環境を消毒してもきりがないから、手指消毒をする。この理屈そのものは理解できても、心情的に納得できない人もいるかもしれません。こう言ったら失礼かもしれませんが、その納得できない心情こそが、我々の社会のいろんな問題の原因かもしれないと、ぼくは思います。2016年の熊本地震のとき、ぼくは医師として熊本県内の益城町にある避難所に行きました。

 避難所には簡易トイレがたくさんありますよね。あそこでノロウイルスとかが流行るといけないというわけで衛生班が行って、定期的にトイレを掃除していました。ところがそこで、ぼくが行く前に入ってきた専門家がポロッと、「1時間にいっぺんぐらい掃除すればいいんじゃないか」みたいなことを言っちゃったらしいんです。なのでぼくが入ったときには、ボランティアの人が1時間に一度、24時間体制で全ての簡易トイレを掃除していました。トイレ掃除のせいでみんなへとへとになって、寝不足になって、体調を壊している。一体何をやってるんだ、本末転倒じゃないですか。

 だからぼくは、「手さえちゃんと洗ってれば、トイレは汚くてもいいんです、っていうか、見た目が汚くなったときだけ掃除すればいいですよ」と指示しました。「トイレ掃除は、感染対策というよりも清潔感、感情の問題なので、うんちが付いてたらきれいにしましょう。トイレの便器や床を舐めたりする人はいないと思うから、あそこに病原体がいてもじつは構わないんです。靴の裏にノロウイルスみたいな病原体が付いていても、靴の裏を舐めたりしない限りは大丈夫です。でも、手はちゃんと洗いましょう。そしてトイレの掃除はやめましょう。

 「それ、みんな疲れるから」ということを伝えました。この「みんな疲れるからやめよう」っていう発想を「引き算の発想」というんですが、日本にはこれがないんです。必ず足し算でいこうとする。引くことを知らないんです。

  例えば、日本政府は新型コロナウイルスのための医療体制を確保するために、新たな病床を確保しようと言っています。ぼくなんかは、無症状の人を入院させるのをやめたらベッドが空くのに、と思うんですが、日本には足し算の発想しかないから、そうはならない。とある指定病院では、3床ある指定ベッドに入院しているうちの2人は無症状だそうです。全く症状のない人のケアのために、たくさんの看護師や医師が目を血走らせて、寝不足で働かされている。そのせいで彼らが体調を崩したら、本来医療を受けるべき患者さんだって困りますよね。だから、やらなくていいことはどんどんやめて、意味のあることにリソースを集中すべきなんです。

「新型コロナウイルスの真実⑯ 」へつづく)

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岩田 健太郎

いわた けんたろう

1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。日本では亀田総合病院(千葉県)で、感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。著書に『予防接種は「効く」のか?』『1秒もムダに生きない』(ともに光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『主体性は数えられるか』(筑摩選書)など多数。


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